ブログ・コラム 札幌の税理士 溝江 諭 の 『一筆啓上』

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『労働保険特別会計』を分析すると その3

 札幌市豊平区の税理士 溝江 諭(みぞえ さとし)です。
 
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 本シリーズの第1回目で、労働保険特別会計のうち、雇用保険についての「雇用勘定」の平成20年度予算を分析し、次の点を指摘しました
 
1 雇用保険が本来果たさなければならないセーフティネット機能の部分に保険収入の60.4%しか使われていない現実。約6割しか使われていないのです。
2 独立行政法人への支出が979億円もあり、保険収入の3.7%にも相当すること。有効に活用されているのでしょうか?
3 積立金の増加が4,927億円もあり、保険収入の20.0%に相当すること。なんと5分の1も余しているのです。

 
 今回は本シリーズの最終回となります。
 
 上記 「2 独立行政法人への支出」 をはじめに取り上げましょう。

 
 雇用勘定から独立行政法人への支出先は、雇用・能力開発機構(注1)、高齢・障害者雇用支援機構(注2)、労働政策研究・研修機構(注3)の3法人です。合計支出額は979億円で、保険収入の3.7%にも達しています。
 
 このうち、雇用・能力開発機構の前身はあの悪名高き「雇用促進事業団」です。雇用促進事業団のときは以下のように全国で2070箇所にも及ぶ勤労者福祉施設を総額4,406億円かけて建設しましたが、その後無駄との指摘を受け、行政改革の一環として平成17年度までに全ての施設が譲渡または廃止されました。しかし、譲渡収入は僅か127億円にとどまりました。

· 体育施設(体育館、運動場、プール等)     ・・・ 1,336施設
· 小型福祉施設(研修会議室、休憩室等)    ・・・  649施設
· 宿泊・保養施設(ハイツ、いこいの村等)    ・・・   65施設
· ホール・会館施設(サンプラザ、テルサ等)   ・・・    19施設
· 総合的リフレッシュセンター(スパウザ小田原)・・・    1施設
 
 国民の監視が届かないことを幸いに、一部の官僚や政治家たちが国民の血税(雇用保険料も租税の一種)を不要なものにつぎ込み続け、天下り先を拡大するとともに赤字をたれ流し、挙句の果ては、譲渡廃止処分による莫大な損失を結局国民に負担させたのです
 
 そのため、政府は雇用・能力開発機の事業を洗い出し、平成20年12月24日に「雇用・能力開発機構の廃止について」(注4)を閣議決定、独立行政法人雇用・能力開発機構を廃止し、職業能力開発業務は独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構に移管し、その他の業務は独立行政法人勤労者退職共済機機構等へ移管することとしました。当然ですね。
 
 今回、雇用勘定の予算の中で、これら3法人のうち雇用・能力開発機構への支出が最も多く、786億円、あとの2つの法人へは合わせて193億円となっています。現在では、これら独立行政法人への支出の中身については十分に精査されていることでしょうが、より効率的な組織作りを確実にするためには、政治家がこれら独立行政法人の事業内容をよく監視する必要があります。特別会計という制度を悪用し、その中で一部官僚等が恣意的な支出をし、その結果国民に負担をかけることになっても、その官僚やこれを放任した政治家が一切責任を取らないと言う無責任体制がこれらの乱脈経理を生んだ元凶ですから、この点はぜひ改めるべきです。
 
 政治家だけで十分な監視体制を作ることができないのなら、公正な第三者機関を作って、そこに監視させても良いでしょう。いずれにしろ、責任の明確化が大切です。なお、独立行政法人自体の存在を否定するものではありません。必要なものは残し、効率的な運用を図ることができれば良いわけですから、貴重な保険料収入をぜひ有効に使ってもらいたいものです。
 
 
 最後に「積立金の問題」に触れましょう。
  
 雇用勘定では、積立金が1年間で4,927億円も増加し、保険収入の20%に相当しています。なんと保険収入の5分の1も余すことになります。このため、積立金の累計は4兆8,776億円にもなっています。
 
 雇用勘定の積立金ついては、失業等給付に充てることを目的として労使より徴収された保険料を財源とし、将来の雇用情勢の変動等による失業等給付に備えて積立てているものですが、果たして、こんなに多額の積立金が本当に必要なのでしょうか?

これに対し、厚生労働省では次のように反論しています(注5)。
 
「積立金については、将来の不況期の給付費や保険料水準を維持するための財源として、好況期に積み立てる資金であるが、
 
① 失業等給付は景気動向によって大きく変動するものであること
 
② 景気及び雇用失業情勢を正確に見通すことは非常に困難であること
 
③ 過去最悪の支出額を超えるような不測の事態が絶対起こらないとは限らないこと
から将来の不況期に必要な積立金の水準を定量的に設定することは困難である。
以上のように、財政状況や雇用失業情勢を正確に見通すことは非常に困難であるが、仮に、定量的に示せば、過去最悪の支出実績が来年度以降続いたと想定した場合、5 年間で約4.3 兆円程度の積立金を取り崩すこととなり、残高は約1.1 兆円程度まで減少する。」
 
 さらには、
「その先も安定的な財政運営を保つためには保険料率が1.6%~2.0%必要となる(現行1.2%)」
と続けています。
 
 この反論によると、最悪の支出状況下でも約6年間充当できるほどの積立金残高となっている訳です。保険料は毎年徴収するわけですから、2年間分もあれば十分でしょう。不足の恐れが生じたら、法律改正で保険料率の引上げを行えばよいのですから2年間分です。やはり、現在の積立額は過大と言わざるを得ません。
 
 さらにこの反論によると、なんと、積立金の維持増加のために、さらなる保険料率の引上げさえ、目論んでいるのです。ちなみに、先ほどの反論の中で、「平成15年度~19年度決算、20年度予算においては、積立金を取り崩したことはない。」と述べているにもかかわらずです(注6)。すなわち、この期間は積立てる一方だったにもかかわらず、さらなる保険料率の引上げを画策しているわけです。どこかおかしいですね。
 
 私も将来的には保険料率の引上げを迫られるかも知れないと考えています。ただし、それには、前回お伝えしたように、セーフティネット機能を現状より充実させるために
 
① 「雇用勘定」の予算の効率的活用
 
② 「雇用保険への加入要件」の緩和
 
③ 「失業給付の受給要件」の緩和
 
を行うことにより、雇用保険の拡充を図るためです。
決して、積立金を増やすための引上げであってはなりません。
 
 参考までに、労働保険特別会計のうち、「労災勘定」の平成20年度予算では、保険収入は1兆3,043億円、保険給付費は7,972億円で61.1%しか本来の給付に使われていません。このため、積立金が1年間で3,150億円増加しています。なんと保険収入の24.1%に相当します。
 
 また、労働保険特別会計(徴収勘定、雇用勘定、労災勘定)全体の積立金の累計が平成20年度でなんと約14兆円にも達することがわかりました(麻生首相の国会答弁、本シリーズ第1回目脚注を参照)。やはりこれも過大ではないでしょうか。
 
 以上、今シリーズは3回に渡って、労働保険特別会計のうち、雇用保険の「雇用勘定」の平成20年度予算の分析を通して、雇用保険はいかにあるべきかを検討してきましたが、皆さんはどう思われましたか。
 
 その他の特別会計についても、それに関係する官僚やこれを承認した政治家の責任の明確化が大切になることは言うまでもありません。
 
 さて、私たち国民、いや納税者は強制的に負担させられている雇用保険、健康保険、年金保険、介護保険などの「社会保険料」や所得税、住民税、消費税などの身近な「税金」、さらには「自賠責保険料」、車検にかかる自動車重量税等やガソリン等にかかる揮発油税等の「自動車関連の税金」などをついついやむを得ないものとあきらめ気味ですが、はたしてそれで良いのでしょうか?「物分りの良い国民」になり過ぎているのではないでしょうか。官僚や政治家から見ると「御(ぎょ)しやすい」、「物言わぬ」住人と見下されてしまう恐れがあります。
 
 民主主義の主権は国民にあるのですから、私たちはこれらの「社会保険料」や「税金」などの使われ方にも今後一層気を配る必要があるのではないでしょうか。私たちが「社会保険料」や「税金」を負担する理由は、まさに、健康で文化的な最低限度の生活を営むためです。国(官僚や政治家)もこれを良くわきまえて、国としての使命を果たして貰いたいものですね。
 
 
(注1)独立行政法人雇用・能力開発機構については以下のサイトへ
http://www.ehdo.go.jp/
 
(注2)独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構については以下のサイトへ
http://www.jeed.or.jp/
 
(注3)独立行政法人労働政策研究・研修機構については以下のサイトへ
http://www.jil.go.jp/institute/naiyou.htm
 
(注4) 雇用・能力開発機構の廃止についての閣議決定は以下のサイトへ
http://www.gyoukaku.go.jp/siryou/tokusyu/201224/honbun.pdf
 
(注5)厚生労働省の反論については以下のサイトの86ページへ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tenken/081201/betten.pdf
 
(注6)厚生労働省の反論については以下のサイトの85ページへ
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tenken/081201/betten.pdf
 
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      札幌学院大学 客員教授 税務会計論担当  (学部)
                     税務会計論演習担当(大学院)**************************************************************************
 
 
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