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(会計)≪中小会計要領の主な内容 その6 経過勘定 2、短期前払費用1≫

2012.5.18
 
 札幌市豊平区の 税理士・社会保険労務士 溝江 諭(みぞえさとし) です。
 
 中小会計要領の各論のうち主なものについて、法人税法との異同を意識しながら見て行きましょう。
 
 今回は、 経過勘定 2 短期前払費用 についてです。
 
 
 中小会計要領には短期前払費用に関する定めはありませんが、中小会計指針および法人税法基本通達には短期前払費用に関する定めがありますので、中小会計要領を適用する場合もこれに準じることが認められるでしょう。
 
 このうち、中小会計指針では次のようになっています(注1)。
 
 「前払費用のうち当期末においてまだ提供を受けていない役務に対応する前払費用の額で、支払日から1年以内に提供を受ける役務に対応する金額については、継続適用を条件に費用処理することができる。」
 
 中小会計指針のこの規定は、法人税法基本通達の短期前払費用に関する次の文章を取り入れたものでした(注2)。
 
 「前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2-8「七」により追加、昭61年直法2-12「二」により改正)
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。」
 
 以上の2つの文章には、短期前払費用に関して、企業会計原則の重要性の原則との関連性を伺わせる文言は入っていません。
 
 一括費用計上または一括損金算入が認められるためには、次の2要件を満たす必要があります。
 
① 1年以内に提供を受ける継続的役務に係るものを支払うこと。
 
② 一括費用計上または一括損金算入を継続適用すること。
 
 そのため、法人が既に契約していた継続的役務に係る支払を月払から年払に変更して前払したり、新たに契約した継続的役務に係る金額を前払し、支払日の属する事業年度の費用として計上し、その後も継続適用するならば、その全額が「損金として認められる。」と解釈することも可能となります。
 
 この解釈が税務上認められるならば、黒字法人の決算期直前の節税策として、金額の多寡にかかわらず短期前払費用を一括費用計上することにより、その金額は税務上の損金として認められることになります。
 
 さて、このように1年以内の短期前払費用ならば、すべて一括損金と認められるのでしょうか。
 
 この問題を検討する際のポイントは、次の2点です。
 
① 短期前払費用の規定は企業会計原則の重要性の原則を根拠とするものなのか。
 
② 一括損金算入の継続適用とはどのようなものなのか。

 
 
 今回はこの問題について、判例に基づいて見てみましょう。
 
 採り上げる判決は、納税者である法人が2億1千万円強の費用を短期前払費用の一括損金として申告したところ、課税庁がその損金算入を認めず更正したため、納税者が提訴した事件(注3)です。
 
 原告である3月決算の納税者は、平成9年3月期において、本件各費用(合計2億1千万円強)について、約束手形を振り出して支払い、これは法人税法基本通達2-2-14後段に定める短期前払費用に該当するものとして、全額を平成9年3月期の損金の額に算入しました。本件各費用の内容は以下の通りです。
 
① F本社ビル1階、4階及び7階の賃借料(年間約1億円)については、平成3年ないし4年当初に契約した際、月払とされていたのを、平成9年3月21日付けの本件F本社ビル賃貸借契約において、年払とした。
 
② O及びPの社員寮賃借料(年間約5千万円)についても、平成9年3月21日付けで本件社員寮賃貸借契約が締結される以前は、月払とされていた。
 
③ ホテルQの賃借料(年間360万円)については、それ以前は契約していなかったのを、平成9年3月21日付けの本件ホテル賃貸借契約により新たに賃借した。
 
④ 本件駐車場の賃借料(年間約600万円)については、平成7年4月から平成9年3月までの賃借料が平成9年3月期末時点で未払であるにもかかわらず、平成9年4月から平成10年3月分のみ手形で支払った。
 
⑤ 本件各広告看板の掲出料(年間4800万円)については、平成6年4月から平成9年3月までの掲出料が平成9年3月期末時点で未払であるにもかかわらず、平成9年4月から平成10年3月分のみ手形で支払った。
 
 以上の事実に基づいて、東京地裁は「重要性の原則との関連について」次のように判示しました。
 
「法人税法22条4項は、同条3項各号に掲げる損金の額に算入すべき金額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定しているところ、ここでいう一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に当たると解される企業会計原則では、重要性の原則の適用として、前払費用のうち重要性の乏しいものについては、経過勘定科目として処理しないことができるものとされている。そこで、本件通達2-2-14は、企業会計原則における上記のような考え方を受けて、その後段において、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める旨定めたものである。
 本件通達が定められたのが上記のような趣旨によるものであるとすれば、当該前払費用をその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することを認めると課税上弊害が生じる場合には、当該前払費用は重要性が乏しいとはいえないので、本件通達後段は適用されないものと解するのが相当である。」(下線は筆者が記入。以下、同。)
 
 その上で、本件各費用の額の重要性について、次のように判示しています(①、②、③、④の数字は筆者が追加。)。
 
「① 本件各費用の額は合計2億1千万円強であって、それ自体多額なものであるうえ、原告の平成9年3月期の当期利益2千7百万円弱の10倍近くにも上るものであり、原告の財務内容に占める割合やその影響は大きいものと認められる。
 なお、原告は、本件各費用の合計額は原告の平成9年3月期の販売費及び一般管理費(42億円弱。)の約5パーセントと少なく、原告の財務内容に占める割合や影響が甚大であるということはできないし、本件各費用の合計額を当期利益と比較することは不適切である旨主張するが、本件通達が企業会計上の重要性の原則を受けたものであることに照らせば、本件各費用の合計額を当期利益と比較することは不適切であるとはいえないし、本件各費用の合計額が2億円を上回る多額なものであることを考慮すれば、たとえ本件各費用の合計額が販売費及び一般管理費の約5パーセントであったとしても、原告の財務内容に占める割合やその影響は大きいと評さざるを得ないから、上記主張は理由がない。」
 
 次に、納税者が本件各費用を損金算入とした目的について検討しています。
 
 「② 納税者は本社ビルの賃借料並びに社員寮賃借料について、当初契約は月払の契約であったものを、平成9年3月期末になって、一括年払の前払に変更したものであるが、月払から年払に変更する合理的な理由は見当たらず、企業会計原則の一つである継続性の原則に反するものといわざるを得ない。次に、駐車場の賃借料および看板広告の掲出料について、平成9年3月期以前の賃借料等が未払であるにもかかわらず、平成10年3月期分のみを支払手形で決済しているが、これは不自然であるといわざるを得ない。
 
③ 納税者において、平成9年3月期の委託手数料収入が急増し、多額の利益が見込まれたこと、また、納税者が様々な方法で同期の利益圧縮を図っていたことは、他の証拠からも明らかであること。
 
④ 以上の諸事情に照らせば、納税者が本件各費用について約束手形を振り出して前払とし、これを損金算入した目的は、専ら平成9年3月期の利益を圧縮して、租税負担を回避することにあったと認めることができる。」
 
 すなわち、これまで月払だった賃借料等を年払に変更したり、未払で残っている賃借料等をそのままにしながら、今後1年間分を手形で支払ったのは、利益を圧縮するための租税回避が目的だったのでしょう、と言っているわけです。
 
 その上で、本件各費用の損金算入について次のように結論付けています。

 
 「以上の諸事情に照らすと、本件各費用を平成9年3月期の損金の額に算入することを認めると課税上弊害が生じるものと認められるので、本件各費用は重要性の乏しいものとはいえないから、これに本件通達後段を適用して損金に算入することはできないものと解するのが相当である。」
 
 すなわち、本件各費用は、重要性の原則の適用である法人税法基本通達2-2-14後段に定める短期前払費用には該当せず、全額を損金不算入にするというのです。ちなみに、東京高等裁判所および最高裁判所においても、納税者からの控訴、上告は棄却され(注4)、この内容で確定しています。
  
 この判決では次のような論理構成となっています。
 
 本件各費用は損金算入できない。 → 前払費用に関する重要性の原則を適用できないからである。 → 重要性が乏しいと言えないからである。 → 損金算入を認めると課税上弊害が生じるものと認められるからである。 
 
 なぜ課税上弊害が生じるものと認められるかというと、次の2点であるといいます。
 
① 本件各費用の額は財務内容に占める割合やその影響が大きいものと認められる。
 
② 次の2点から、利益を圧縮するための租税回避が目的と認められる。
 
ⅰ 月払から年払への支払方法の変更に合理的な理由がなく、また、未払で残っている賃借料等をそのままにしながら、今後の分を手形で支払うのは不自然である。
ⅱ 平成9年3月期の委託手数料収入が急増し多額の利益が見込まれたことにより、納税者が様々な方法で同期の利益圧縮を図っていたことが明らかである。

 
 以上の判決から類推すると、短期前払費用の一括損金算入が認められるのは、次の2要件に該当する場合です。
 
① 短期前払費用の金額が納税者の財務内容に占める割合やその影響が大きくないこと。
 
② 短期前払費用の支払が租税回避目的でないこと。その判定要素の一つとして、過去からの継続適用があり、支払方法を変更する場合には、合理的な理由があること。

 
 ①については、財務内容に占める割合やその影響が大きくないこととはどのようなことを指すのか明確な基準が示されていない点に不満を感じますし、②については、支払方法を変更する場合の合理的な理由の具体例が示されていない点に不満が残りますが、考え方そのものは妥当なものと思えます。
 
 例えば、①については、短期前払費用の金額が販売費及び一般管理費に占める割合や当期利益との対比、これらの前期以前の数値との推移などを指標とすることが考えられますが、課税庁は採用する指標およびその基準値を明確にするべきでしょう。
 
 また、②については、月払から年払等へ支払方法を変更する場合には、新たな支払方法により賃借料等が割引になる場合や貸主からの強力な変更要請の場合などが合理的な理由に該当するのでしょうが、課税庁は他にも具体例を挙げて納税者の便益に供するべきでしょう。
 
 以上に記したように、実務においては、短期前払費用を決算期直前の節税目的で利用しようとする場合には注意が必要です。上記の2要件を確実にクリアする必要があるからです。
 
 なお、このような論理に立つのならば、本件各費用のうち、ホテルQの賃借料(年間360万円)については、新たな契約によるものなので、使用実態があるならば、この部分については、今後の継続適用を前提として短期前払費用としての損金算入が認められても良かったのではないかと思われます。
 
 本判決と同様に、法人税法基本通達2-2-14後段に定める短期前払費用を重要性の原則の適用として捉えた判決として、長崎地裁の傭船料の事件があります(注5)。
 
 本判決では納税者が負けましたが、国税不服審判所の裁決には納税者が一部勝った例もあります。それは、月額賃借料400万円を6か月分2400万円前払し、そのうち1500万円は法人税法基本通達2-2-14後段に定める短期前払費用として損金算入が認められた事件です。
 

 今回はここまで。
 
 
 次回は、経過勘定のうち、納税者が勝った短期前払費用 についてです。上記の裁決例を解説します。
 
 ≪中小会計要領の主な内容 その7 経過勘定 3、短期前払費用2≫
 
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 See you next!
 
 
(注1) 中小指針 31.経過勘定等に係る会計処理(2)
(注2) 法人税法基本通達2-2-14 
(注3) 東京地裁平成17年1月13日判決の平成14年(行ウ)第338号法人税更正処分等取消事件(国税庁税務訴訟資料 Z255―09891)です。この中から、短期前払費用に関する部分だけ取り上げます。
(注4) 東京高裁平成17年9月21日判決(Z255―10140)、最高裁判所第2小法廷平成18年11月24日判決(Z256―10581)。
(注5) 長崎地裁平成12年1月25日判決(Z246―8566)、高裁、最高裁とも棄却。
 
 
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  TKC全国会会員
  税理士・社会保険労務士・行政書士 溝江 諭 KSC会計事務所
      Tel  011-812-1672 http://www.ksc-kaikei.com/
 
            札幌学院大学 客員教授 税務会計論担当(学部)
                            税務会計論演習担当(大学院)
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